タップできる目次
まずは結論
福岡市の救急医療体制は、地域住民と医療機関が一体となり、三層構造の救急医療と「名前のついた救急車」プロジェクトを通じて支えられています。これにより、市民が適切に救急車を利用し、医療リソースを効率的に活用できる環境を整えています。
主なポイント
- 三層の救急医療体制
- 初期救急医療:軽症対応から入院が必要なケースまで、急患診療センターや診療所が夜間・休日に対応。市民への啓蒙で負担軽減が重要。
- 二次救急医療:入院や重症患者対応を担い、救急告示病院や輪番制病院が交替で対応。適切な診療科への連携が鍵。
- 三次救急医療:生命危機の重篤患者対応を行う済生会福岡総合病院や福岡大学病院が中心。高度専門医療と地域との連携が重要。
- 「名前のついた救急車」プロジェクト
- 市民や企業からの寄付で支援された救急車が地域の救急体制を支え、救急医療への関心と貢献意識を醸成。
- 市民への教育と適切な救急車利用の啓蒙
- 「救急車を呼ぶ7つのタイミング」の普及や救急相談窓口の設置により、市民が適切に救急医療を利用できるよう指導。
- 救急隊員の訓練と地域支援
- 救急隊員の技術向上、精神的サポート、搬送プロセスの整備で質の高い救急医療提供を実現。
地域の協力と医療体制の持続可能性
地域住民が救急医療体制を理解し、正しい利用をすることで、医療リソースが適切に運用されます。
はじめに
福岡市の救急医療体制は、地域の医療機関と救急隊が一体となって構築され、地域住民の生命を守るための重要な基盤となっています。特に「名前のついた救急車」プロジェクトや、市民教育を通じた適切な救急車の利用啓蒙は、救急医療に対する理解を深め、市民が積極的に医療に貢献できる機会を提供しています。本記事では、福岡市の救急医療の仕組みや課題、そして市民が救急医療にどのように貢献できるかについて詳しく紹介し、命を守るために知っておきたい重要な情報をお伝えします。
福岡市の救急医療体制と役割分担
福岡市の救急医療体制は初期、二次、三次に分かれ、それぞれ異なる施設と医療スタッフが迅速かつ適切な対応を行うよう設計されています。この段階的な体制は、患者の症状に応じた適切な医療を提供することを目的とし、地域社会全体での安心・安全を守るためのものです。
初期救急医療:急患診療センターと診療所の役割
福岡市では、急患診療センター1施設、急患診療所5施設、歯科急患診療所1施設が夜間や休日において軽症から入院・手術が必要な患者まで幅広く対応しています。これにより、夜間や休日の急患対応が可能で、市民に安心感を提供しています。
しかし、緊急性が低い患者が多く受診するケースも見られ、診療スタッフや設備の確保が課題です。特に高齢化社会の進行により、軽度な症状であっても受診を希望する人が増加しており、これが現場の医療スタッフに負担をかけている現状があります。そのため、初期救急医療の負担を軽減するための啓蒙活動や地域医療との連携が重要視されています。
また、急患診療センターは一般的な軽症患者の対応に加え、特定の専門的な治療が必要な患者についても、迅速に適切な医療機関に紹介する仕組みが整っています。市民がどのような状況で急患診療を利用すべきかを理解することが、適正な医療提供に繋がる重要な要素となります。
二次救急医療:救急告示病院と病院群輪番制病院
二次救急医療では、入院や高度な治療が必要な重症患者を中心に、救急告示病院40施設と病院群輪番制病院が対応しています。救命救急センターと共に地域の医療支援を担う中心的存在ですが、病院によっては診療体制にばらつきがあるため、迅速な対応を行える体制づくりが求められています。二次救急は、一般的な救急対応に加えて、複数の診療科にまたがる治療が必要な患者を効率的に受け入れる役割を果たしており、特に多発外傷や内科的な重篤な病態に対する対応が求められます。
病院群輪番制は地域の中で各病院が交替で救急患者を受け入れる体制であり、各病院の負担を分散しながら効率的に医療リソースを活用する取り組みです。しかし、輪番制のスケジュールによっては、特定の病院に負荷が集中することもあるため、地域全体での調整と連携が不可欠です。さらに、地域住民に対する情報提供の強化により、どのタイミングでどの病院を利用するべきかの理解を促進することが重要です。
三次救急医療:重篤な患者に対応する拠点
三次救急医療は、済生会福岡総合病院や福岡大学病院などが中心となり、生命の危機に直面する重篤な患者に対して複数診療科の専門的医療を提供しています。福岡市の救命医療の最後の砦であり、特に重篤な患者に対する医療リソースが集中していますが、財政面でのサポートや後方病院との連携強化が必要です。これらの病院では、高度な集中治療や外科的処置、さらには心臓手術や脳神経外科手術といった高度専門医療が提供されており、各診療科が密接に協力して患者の治療に当たります。
また、三次救急医療の現場では、重症患者に対応するだけでなく、後方支援を行う役割も重要です。つまり、急性期を脱した患者を適切に地域の医療機関に転院させることで、重篤な患者への集中治療能力を維持するための流れを確立することが必要です。このような転院システムの強化により、三次救急の病院はその専門的医療リソースを重篤な患者に集中させることが可能となります。
「名前のついた救急車」プロジェクト:命を守る絆と地域支援
福岡市では約30%の救急車に名前がついており、企業や個人からの寄付で運用されています。これは、「命を守る絆」として救急医療への支援と市民の理解を深めることを目的とし、地域住民が自分たちの命を守る医療体制に直接貢献できる仕組みとして注目されています。地域全体での「恩返しの精神」が救急医療のリソースを支え、さらに強力な救急医療体制の整備に貢献しているのです。
「名前のついた救急車」プロジェクトでは、各救急車に企業や個人の名前がつけられ、その背景には寄付者の思いや地域社会への貢献意識が込められています。救急車に名前をつけることで、寄付者と救急医療とのつながりが強調され、支援活動に対する関心と理解が広がっています。また、このプロジェクトは、地域社会における救急医療の重要性を再認識させるきっかけともなっており、地元企業などの地域資源をうまく活用して救急医療の質向上に寄与しています。
救急車を呼ぶ7つのタイミング:命を守るための判断基準
市民が正しいタイミングで救急車を呼ぶことは、救急医療体制の円滑な運営に大きく影響します。福岡市では、市民が適切な判断を行えるよう「救急車を呼ぶ7つのタイミング」として、以下の基準を公表しています。
- 意識がない:家族や周囲の人が呼びかけても反応がない場合。
- 呼吸が苦しい:突然の息苦しさや喘鳴が発生したとき。
- 胸が痛む:心筋梗塞の可能性がある場合。
- 激しい頭痛:突然の激しい頭痛が現れ、意識がもうろうとしているとき。
- 吐血や下血:大量の出血が見られる場合。
- 意識を失うようなめまい:極度のめまいで立てなくなったとき。
- 骨折や大けが:自力で動けない大けがや骨折がある場合。
このような症状があれば、ためらわずに救急車を呼ぶことが推奨されますが、軽度の症状での利用は控えるよう啓蒙も進められています。さらに、福岡市では、市民に向けて「救急相談窓口」を提供し、救急車を呼ぶべきか迷った際に適切な助言を受けられる体制を整えています。この窓口は、電話やオンラインを通じて利用でき、緊急度に応じたアドバイスを提供することで、不要な救急車利用の削減に貢献しています。
救急車の出発が遅れる理由:市民への協力要請
福岡市では、「なぜ救急車がすぐに出発しないのか」という疑問に対しても市民教育を行っています。出発が遅れる理由には以下のような要素が関係しており、市民の協力が重要です。
- 受け入れ病院の確認:重篤な症例に適した病院の受け入れ状況を確認する時間が必要です。各病院の状況により、受け入れ可能かどうかを判断することは、患者に最適な治療を提供するために不可欠です。
- 搬送先の検討:最適な医療提供ができる病院の選定を行うため、時間がかかることもあります。適切な診療科や設備を持つ医療機関を選ぶことは、患者の予後に直接影響する重要なプロセスです。
- 現場の見学や妨害:救急現場での無駄な見学やスマホ撮影が搬送の妨げとなり、対応が遅れる場合があります。これを避けるためには、一般市民の理解と協力が欠かせません。
市民一人ひとりが救急医療に理解を示し、適切に行動することで、迅速な救急対応を支えることが可能です。「手伝うつもりがないなら見に行くな」との啓蒙は、命を守るために重要なメッセージです。さらに、市民が現場で適切な応急手当を行えるように、基本的な応急処置や心肺蘇生法(CPR)の講習を受けることも奨励されています。
市民教育と救急隊員の教育:正しい救急利用と救命スキル
市民教育の重要性
福岡市では、「コンビニ受診」や「安易な救急車利用」を避けるため、市民への教育が重要視されています。特に夜間や休日における軽症での受診を抑えるため、かかりつけ医の重要性も広く訴えられており、地域全体での意識向上が図られています。市民教育は、学校や地域イベントを通じて行われ、子どもから高齢者まで幅広い世代に対して「救急医療を適切に利用する方法」を学ぶ機会を提供しています。
また、救急医療の利用についてのガイドラインをわかりやすく示したパンフレットやウェブサイトの提供も行われています。これにより、市民は適切な判断を行うための情報を容易に入手できるようになり、救急医療の質向上に貢献しています。
救急隊員教育の取り組み
市民に的確で迅速な救急対応を提供するために、福岡地域メディカルコントロール協議会が救急隊員の技術と知識の向上を支援しています。地域の医療機関との連携も重視され、プロトコルの確立と改善が行われており、搬送先選定や迅速な対応が強化されています。救急隊員は定期的に研修を受け、救命技術や患者対応のスキルアップを図っており、特に重症患者に対する処置能力の向上が求められています。
また、救急隊員はストレスの多い環境で働くため、精神的なサポートも重要な要素です。福岡市では、救急隊員のメンタルヘルスを支援するためのプログラムも導入されており、過酷な現場で働く隊員が心身ともに健康でいられるような環境づくりが進められています。
地域全体で支える福岡市の救急医療体制
福岡市の救急医療体制を支えるには、地域住民や医療機関の協力が不可欠です。救急車の適正利用や市民教育によって、救急医療への意識を高めることが、持続可能な医療システムの構築に直結します。「名前のついた救急車」プロジェクトのように、地域の支援や参加が市民と医療機関をつなぐ架け橋となり、命を守るための強固な絆を築いています。
地域住民が自分たちの健康を守るためにできることは多岐にわたります。たとえば、救急車を呼ぶべき状況と、かかりつけ医での受診が適している状況を明確に理解すること、適切な応急処置を学ぶこと、そして地域の救急活動を支援するための寄付やボランティア活動に参加することなどです。これらの行動は、最終的に地域全体の救急医療体制を強化し、すべての人々にとって安全で安心な社会を築くことに繋がります。
まとめ
福岡市の救急医療体制は、地域住民と医療機関、救急隊員が協力して支えることで、より強力で持続可能なものとなります。市民が「救急車を呼ぶタイミング」を理解し、適正な利用を心がけることは、医療リソースの有効活用に欠かせません。また、地域全体での救急医療支援の意識が広がることで、福岡市の命を守る絆が強まっていくでしょう。
市民教育を通じて救急医療に対する正しい理解を深め、救急隊員の技術向上を支えることで、福岡市は安心して暮らせるまちづくりを目指しています。地域住民一人ひとりの協力が、救急医療の質と効率を向上させ、救命率の向上につながるのです。これからも地域と医療が一体となって、命を守る体制をさらに強化していくことが求められています。
参考サイト:
福岡市データ(https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/39295/1/1shiryo3-2.pdf?20161103104059)
福岡市民病院 救急科(https://shiminhp.fcho.jp/department/emergencydepartment)
福岡市政だより 【発行号】令和3年4月1日号【掲載面】情報BOX【カテゴリー】夜間・休日急患診療夜間・休日急患診療(https://www.city.fukuoka.lg.jp/shicho/koho/fsdweb/2021/0401/1510.html)
福岡市 救急医療・消防(https://www.city.fukuoka.lg.jp/kyukyu-shobo/index.html)
投稿者プロフィール
-
経験と資格 信岡俊孝氏は2011年に看護師免許を取得し、13年間病院での勤務経験を持っています。京都の愛生会山科病院では消化器内科や循環器内科、整形外科など幅広い分野で臨床経験を積み、その後、福岡の長尾病院で透析科や回復期リハビリ病棟を担当しました。
2024年には、看護師の働き方改革を目指して株式会社ShiNを設立。
保有資格
看護師免許 (2011年取得)
AFP (Affiliated Financial Planner, 2024年取得)
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
販売士2級
第一種衛生管理者免許
ビジネスマネジャー検定試験®
ビジネス法務エキスパート® (2級)
日本商工会議所簿記検定試験3級
第二種電気工事士